寿司・蕎麦・鰻・天麩羅を「四大江戸前」といいますが、最初に江戸前になったのが「鰻の蒲焼」です。江戸前の「前」は、男前や腕前の「前」に通じます。つまり、「江戸スタイル」ということです。米がとれないから蕎麦を食べる、つまり蕎麦が代用食になっていた地方もありますが、江戸では、蕎麦は趣味食です。お腹を膨らませに行くのではなくて、「暇があるから蕎麦屋で一杯やろうぜ」というのが、江戸スタイルなのです。天麩羅にしても、上方では魚のすり身を使っていましたが、それが江戸に入ってきて、切り身に衣をっけて揚げるスタイルになりました。スピーディかつ斬新で・スタイリッシュなところが受けたのです。上方で発祥した寿司は、馴れ寿司や押し寿司で、熟成を待たなければ食べられません。酢飯と合わせて目の前で握ってすぐに食べられるのが、江戸らしくて粋です。江戸っ子の心をつかむキーワードは、「珍」「奇」「怪」で珍しく・奇をてらった・怪しげな(秘密めいた)ところのあるものが喜ばれます。上方にルーツがあるものでも、江戸風にアレンジして、まったく違ったものに生まれ変わっています。「負けず嫌い」が、江戸っ子のバイタリティーです。京都を代表とする上方の歴史は約千二百年あるのに対して、江戸は三分の一の四百年程度、八代将軍吉宗の時代くらいまでは「下り物」といって上方から来る物産が何よりの高級品で、下り物以外の「下らない物」はろくでもない物でした。まともにやっても勝てないから江戸っ子はアイディアで勝負したのです。二世紀半燃やし続けたライバル意識が、江戸文化の源泉です。
(杉浦日向子の江戸こぼれ話より)
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